カラヴァッジョ(カラヴァッジオ)とは? 画家プロフィール
ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ
ミケランジェロ・メリージ・ダ・カラヴァッジョ(Michelangelo Merisi da Caravaggio)はバロックを代表する画家。カラヴァッジオとも。
劇的な明暗表現のなかに聖なるものと俗するものを融合させたカラヴァッジョ独自の宗教画は、これまでにないドラマティックな絵画として人気を博し、カラヴァジェスキ(カラヴァジェスティ)と呼ばれる多くの模倣者を生み出したほか、全ヨーロッパの芸術家に影響を及ぼしました。
カラヴァッジョの代表作に『ホロフェルネスの首を斬るユディト』『聖マタイの召令』『キリストの埋葬』『エマオの晩餐』『洗礼者聖ヨハネの斬首』などがあります。
カラヴァッジョ(カラヴァッジオ)の生涯
1571年、ミラノの田舎カラヴァッジョ村に生まれ、ミケランジェロと命名されたカラヴァッジョ。ロンバルディア地方で大流行したペストにより父、祖父、叔父を亡くし、13歳でフレスコ画家に弟子入りしました。
ケンカが原因でミラノを出ることになったカラヴァッジョは、22歳でローマのダルピーノ工房へ。24歳のときに『バッカス』でローマ・カトリック教会の枢機卿フランチェスコ・マリア・デル・モンテに才能を認められ、その後『聖マタイの召命』『聖マタイの殉教』で一躍スター画家への道を駆け上ります。
しかし、短気でケンカっ早い性格が災いし、カラヴァッジョは画家として有名になってからもトラブルを起こし続けました。ローマの警察記録には10回以上もカラヴァッジョの名が残されており、とうとう35歳のときには、テニス賭博がきっかけで友人を刺殺してしまいます。
世紀の画家カラヴァッジョは殺人犯へと転落を遂げてしまったのです。
懸賞金を掛けられたカラヴァッジョはローマにいられなくなり、ヨーロッパ各地を転々とする生活を送ることになりました。
旅先でも作品の制作を続けていたカラヴァッジョは、逃亡先のマルタ島でマルタの騎士団長に絵を贈ってナイトの称号を受けたものの、再びケンカを起こしてナイトは剥奪に…投獄されたカラヴァッジョは何と脱獄を図り、今度はシチリアへ。
新たな地シチリアでも画家としての名声を得ますが、やはりここでもトラブルを起こしたという記録が残っています。
絵の才能を認められ、人生の再起が叶いそうになると、またトラブル…そんな生活を繰り返していたカラヴァッジョは、ローマに戻ることを願い、恩赦を受けることを望んでいました。
しかし、皮肉にも恩赦を受けるための旅の途中でカラヴァッジョは病に倒れ、ローマに戻ることが叶わぬまま、1610年に38歳という若さでこの世を去りました。
粗暴な性格ゆえ破天荒な人生を歩み、弟子も取らないままヨーロッパ各地を転々としたカラヴァッジョは、死後の評価も決して芳しいものではなく、カラヴァッジョの作品が再び見直され高評価が確立したのはカラヴァッジョの死後数十年が経過してからのことでした。
1980年代にカラヴァッジョはイタリアのリラ紙幣に肖像画と作品(女占い師)が採用されています。殺人という大罪を犯し逃亡した画家が、紙幣のデザインに採用されるのは異例のこと。それだけカラヴァッジョがイタリアの代表的な画家として認められているということの証でしょう。
カラヴァッジョの作品の特徴・鑑賞ポイント
キアロスクーロやテネブリズムによる明暗表現
カラヴァジョを語る上で外せないのが、ダイナミックでドラマティックな明暗表現。フェルメールが光の魔術師であるならば、カラヴァッジョは光と闇の魔術師です。
カラヴァッジョを一躍スター画家にした『聖マタイの召命』では、窓から一筋の光が差し込み、室内にいる人間たちを照らします。注目させたい部分以外を極端なほど暗く影にすることで、人物やキリストの指先が画面に浮かび上がって見えます。
レオナルド・ダ・ヴィンチが発見したといわれる技法キアロスクーロは、対象物に明暗(影)をつけて立体的に見せる、明暗で画面を構成するために使う技法のこと。そして、キアロスクーロより強烈なコントラストで明暗を表現するのがテネブリズム(劇的照明)です。
カラヴァッジョは、このキアロスクーロやテネブリズムを作品に取り入れることで、劇的にドラマティックな画面を構成してみせた最初の画家と言って良いでしょう。
リアリティあるカラヴァッジョの宗教画
カラヴァッジョは、マリアを身分の低い身なりや生々しい死体として描くなど、それまでの宗教画では有り得なかった表現にも挑戦していきます。
日常的であったり、過激すぎたりするカラヴァッジョの宗教画は、教会から「神聖な宗教画を冒涜している」「敬意が足りない」と批判され、購入を拒否されることもありました。
一方でカラヴァッジョの作品は教会の上層部からは高く評価されていたようです。
この時代の庶民の識字率は高くなかったため、教会にとって布教のための宗教画は必要不可欠なものでした。日常的な舞台に親しみを持つと同時に、絵画のなかの人物に感情移入し、自分の姿と置きかえて見ることができるカラヴァッジョの宗教画は布教ツールとしてうってつけだったのでしょう。
全ヨーロッパへ波及したカラヴァッジョの影響力
カラヴァッジョの革新的な表現が芸術家たちに与えたインパクトは、イタリアから北ヨーロッパ、そして全ヨーロッパへと波及していきます。
カラヴァッジョの影響力は、カラヴァッジョの作風を模倣したり、カラヴァッジョ色の濃い作品を制作するカラヴァッジェスキ(カラヴァジェスティ)と呼ばれるカラヴァッジョ主義者を生み出すほどでした。代表的なカラヴァッジェスキにアルテミジア・ジェンティレスキがおり、彼女は女性として初めてアカデミーに加わるなど、その実力は高く評価されています。
カラヴァッジョの作風は一時のブームで終わることなくルーベンス、ベラスケス、レンブラントといった後世の巨匠たちにも影響を与えました。
カラヴァッジョの代表作 15点
カラヴァッジョがバロック美術や以降の芸術に与えた影響から考えると、どの作品もカラヴァッジョの代表作と呼ぶにふさわしい重要な意味を持つ作品になるかと思いますが、ここではあえて15点を選んでみました。
作品画像は左上段から
- ・リュートを弾く若者
- ・果物籠
- ・ホロフェルネスの首を斬るユディト
- ・聖マタイの召命
- ・ナルキッソス
- ・キリストの埋葬
- ・ロレートの聖母
- ・聖母の死
- ・ロザリオの聖母
- ・慈悲の七つの行い
- ・ゴリアテの首を持つダヴィデ
- ・エマオの晩餐
- ・イサクの犠牲
- ・洗礼者聖ヨハネの斬首
- ・法悦のマグダラのマリア
となっています。リンクは作品ごとの解説記事です。
カラヴァッジョといえば宗教画ですが、静物画を語る上で外せない『果物籠』やNHK・Eテレの人気番組びじゅチューン!のモデル作品となっている『ナルキッソス』も加えています。
ここでご紹介した代表作15点を含むカラヴァッジョの主要作品一覧は次ページ以降、時代別にまとめました。71点すべて作品画像付きでご紹介しています。