カラヴァッジョ作『キリストの埋葬』作品解説
『キリストの埋葬』作品解説
『キリストの埋葬』は、キリストの弟子たちがキリストの亡骸を抱きかかえ岩山に掘った墓に降ろそうとしている聖書の場面を描いた、バロック美術を代表するカラヴァッジョの傑作です。
1602年から1604年頃にローマにあるキエーザ・ヌオーヴァのヴィトリーチェ礼拝堂のために制作された油彩画『キリストの埋葬』は、ナポレオンによりフランスに持ち去られ、一時はルーヴル美術館に飾られていました。現在はフランスから返還され、バチカン美術館に所蔵されています。
ラファエロ以前の古典絵画の雰囲気と写実性が融合したカラヴァッジョ『キリストの埋葬』は、キリストらを下から見上げた仰角表現、明暗の対比、放射状に広がる構図、岩盤が飛び出してみえる遠近表現、どこを取っても斬新でドラマティックな作品であり、ルーベンスやジェリコー、ダヴィッドら西洋美術の巨匠たちにも熱心に模写されました。
キリストを抱きかかえる聖ヨハネとニコデモ
カラヴァッジョ『キリストの埋葬』のなかで、キリストの上半身を抱えているのは聖ヨハネ、キリストの下半身を抱きかかえ画面のこちら側に肘を突き出しているのはニコデモ。
ニコデモの肘とキリストらが乗る岩盤の角はキャンバスから飛び出してくるかのようにこちらを向いており、キリストを包む亜麻布は聖ヨハネとニコデモの腕によりキリストの身体の下でたわみを作った後、岩盤から手前に垂れ下がっています。『キリストの埋葬』の奥行きを強調し臨場感を持たせるカラヴァッジョの巧みな演出です。
悵然としたクレオパのマリアが目を引く放射状の構図
聖ヨハネとニコデモの後ろには、左から修道女姿の聖母マリア、マグダラのマリア、腕を広げ天を仰ぐクレオパのマリアが並びます。カラヴァッジョ『キリストの埋葬』のなかに悵然としたクレオパのマリアが入ることで悲哀の感情が増幅しています。
息絶えたキリストや涙するマリアたちを静とするならば、クレオパのマリアのポーズは動。光と闇のコントラストを強調したカラヴァッジョによる『キリストの埋葬』の画面構成のなかで、キリストが身体を水平に倒し、聖ヨハネやマリアらが身体を前傾させることで画面の中央あたりに人の頭が集まっていますが、クレオパのマリアが後ろで腕を掲げたことで、構図に放射状の広がりが生まれています。
ルーベンスに模写されたカラヴァッジョ作『キリストの埋葬』
カラヴァッジョ『キリストの埋葬』は、カラヴァッジョらしい劇的な光や闇とルネサンスの香りを感じる古典が融合しており、大胆な人物の配置、大げさとも取れるバロック美術らしいドラマティックな人物表現は、カラヴァッジョの後に続くバロックの巨匠たちにも多大な影響を与えました。
ルーベンスは、カラヴァッジョ作『キリストの埋葬』とほぼ同じ構図の作品を模写として残しています。カラヴァッジョ作『キリストの埋葬』と比べると、ルーベンスの作品は聖ヨハネをキリストの胸から頭のほうへ移動させているほか、画面の後ろで手を広げるクレオパの代わりに暗闇に男の存在を加え、光に照らされた登場人物たちを全体的に左に寄せています。
カラヴァッジョ『キリストの埋葬』基本情報
- 作品名:キリストの埋葬
- Title:The Entombment of Christ(Deposizione)
- 作者:カラヴァッジョ(カラヴァッジオ)
- 制作年:1602-1604年頃
- 種類:油彩、キャンバス
- 寸法:300cm×203cm
- 所有者:バチカン美術館