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ハンス・ホルバインの生涯と代表作・作品解説

ハンス・ホルバインとは?

ハンス・ホルバイン(子) Hans Holbein

ハンス・ホルバイン(子)は、肖像画や木版画、装丁でも才能を発揮した北方ルネサンスの芸術家です。同名である父も画家のため区別するためにホルバイン(子)と表されます。

代表作として木版画の連作『死の舞踏』肖像画『大使たち』などがあります。

ハンス・ホルバインの生涯

南ドイツ・アウクスブルクに生まれたホルバイン(子)は、18歳になるとスイスの出版社で働き、22歳でバーゼルの画家組合に加入します。ホルバインは宗教画を手がける画家でしたが、宗教改革により宗教画では食べていくことができなくなり、イギリスで2年ほど肖像画を描いて暮らし、その後バーゼルに戻り結婚。しかし周辺の宗教改革の波はますます強くなっており、妻子をバーゼルに残したまま再びイギリスに戻ったホルバインは39歳でヘンリー8世の宮廷画家になりました。最後は宮廷画家としての身分を剥奪され、ロンドンで流行したペストで亡くなっています。

20代半ばから着手していた木版画『死の舞踏』は宗教改革を助長する恐れがあるということですぐには出版することができず、出版されたのはホルバイン(子)41歳のときでした。

ハンス・ホルバインが活躍した北方ルネサンスとは

ローマから見て北側、アルプスより以北のイタリア以外のヨーロッパで始まった美術が北方ルネサンスです。ネーデルラント、ドイツ、フランスなどヨーロッパの国々とルネサンス運動が盛んだったイタリアとの交流が進み、イタリアに芸術家たちが自国にイタリアルネサンス美術のエッセンスを持ち帰ったことも、北方ルネサンスに多大な影響を与えました。油絵具を使い始めた北方ルネサンスの芸術家たちの作品は緻密な表現力が特徴です。

ハンス・ホルバイン(子)はドイツやイギリスで活躍した画家・版画家・装丁家です。

ハンス・ホルバインの特徴・作品鑑賞ポイント

「メメント・モリ」ホルバイン死の舞踏が大ヒット

1347年頃からヨーロッパ全土でペストが大流行し、このとき実に人口の3割以上の命が失われています。人々は気が狂って踊り出すほど死を恐れるようになり、この様子は死の舞踏と表現されました。

時は流れ、ホルバイン(子)が1523年頃から取り組んでいた木版画の連作『死の舞踏』が1538年に発売されると、世の中の雰囲気とマッチし、版を重ねるほどの大ヒットに。

どれだけ地位を築き上げても死はやってくることを表した『死の舞踏』の発売から5年後、ホルバインはロンドンで大流行したペストにより命を落としました。

ホルバイン大使たちの歪みの技法アナモルフォーシス

ヘンリー8世の肖像画など気品溢れる格調高い肖像画を得意としたホルバインは、富と権力をふんだんに盛り込んだ肖像画『大使たち』の足元に斜めにゆがんだ骸骨を描きこみました。これはアナモルフォーシス(歪像画)と呼ばれる16~17世紀頃に使われた技法で、この場合は右側から骸骨を見ると歪みがとれて骸骨に見えます。

ハンス・ホルバインの作品・代表作

ハンス・ホルバイン『墓の中の死せるキリスト』

ハンス・ホルバイン(子)『墓の中の死せるキリスト』は、宗教改革が起きたあとに描かれたキリストの油彩画。キリストは目も口も閉じておらず、顔や手足の指先は黒く変色し、硬直が始まっているように見える様子が目を背けたくなる気味の悪さを醸し出しています。人体の生々しさをことさらに強調した絵画です。

作品名:墓の中の死せるキリスト
作者:ハンス・ホルバイン(子)
制作年:1521-1522年
種類:板、油彩・テンペラ
寸法:30.5cm×200cm
所有者:バーゼル市立美術館(スイス)

ハンス・ホルバイン『エラスムス』

ハンス・ホルバイン(子)『エラスムス』は、オランダの人文学者であるエラスムスの肖像画。ホルバインはエラスムスの肖像画を何点か描いており、なかでもこれは書き物にいそしむエラスムスの目線、写実的に丁寧に描きこまれた指先の描写が大変美しい作品となっています。

北方ルネサンスでは、宗教画の仕事が無くなった画家が肖像画や風景画などに仕事の方向を転換することが往々にしてあり、ハンス・ホルバインも多くの肖像画を手がけました。

作品名:エラスムス
作者:ハンス・ホルバイン(子)
制作年:1523年
種類:板、油彩
寸法:43cm×33cm
所有者:ルーヴル美術館(フランス)

ハンス・ホルバイン『大使たち』

ハンス・ホルバイン(子)『大使たち』は、ヘンリー8世の宮廷に仕えていたフランス大使ジャン・ド・ダントヴィルとラヴォール司教ジョルジュ・ド・セルブの肖像画。

2人の足元にある骸骨は人生の虚しさ無意味さを表すヴァニタスであり、角度によって正しい姿を見せるアナモルフォーシスという技法で描かれています。2人がもたれかかる棚には地球儀、弦の切れたリュート、計器類などが置かれており、これらの小物は彼らの教養の高さや富を手に入れた成功の証しを表していると同時に「形あるものはいつか壊れる」ということも表しているのです。

作品名:大使たち
作者:ハンス・ホルバイン(子)
制作年:1533年
種類:板、油彩
寸法:207cm×209.5cm
所有者:ナショナル・ギャラリー (イギリス・ロンドン)

ハンス・ホルバイン『死の舞踏(連作)』

ハンス・ホルバイン(子)『死の舞踏』は、ホルバイン(子)による41枚セットで発売された連作の木版画。
ペストの流行により踊り出すほど気が狂ってしまった人々を死の舞踏と表現します。骸骨(死)による死の舞踏(ダンス・マカーブル)を主題にした絵画や版画は当時大変人気があり、特に1538年に発売されたホルバインの版画は何度も版を重ねました。

作品名:死の舞踏(連作)The Lady
作者:ハンス・ホルバイン(子)
制作年:1538年
種類:木版画
寸法:7.3cm×5.4cm
所有者:メトロポリタン美術館(アメリカ)

北方ルネサンスの代表的な芸術家リスト