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北方ルネサンス(北方美術)とは

北方ルネサンスは北方ヨーロッパの美術

イタリア・ルネサンスの影響を受けたヨーロッパ

北方ルネサンスとは、14~16世紀のあいだにローマから見て北側、アルプスより以北のイタリア以外のヨーロッパで始まった美術で、北方美術とも呼ばれます。

イタリアで巻き起こったルネサンス運動は、やがてネーデルラント、ドイツ、フランスなどヨーロッパ全体へと広がっていきます。イタリアとヨーロッパ各国との交流が進み、イタリアに旅行や修行に出かけた芸術家たちが自国にイタリアのルネサンス美術の理論や技術を持ち帰った影響も大きいでしょう。

イタリアのルネサンス運動では古代ギリシャ・ローマの文化・芸術を復興させようとしましたが、北方ルネサンスのネーデルラントやフランドルでは初期キリスト美術や中世ゴシック美術のような緻密で写実的な絵画も制作されました。日常の風景に聖書の登場人物を溶け込ませるなど、北方ルネサンス特有の絵画も見られます。

マニエリスムの影響でイタリアのルネサンス美術が終わりを迎えたその約1世紀後、北方ルネサンスも同様の理由で終わりを迎えました。

宗教改革により風俗画や風景画も登場

ピーテル・ブリューゲル『農民の踊り』

ピーテル・ブリューゲル『農民の踊り』

戦乱、疫病、飢餓など人々の不安を煽る出来事が起こったヨーロッパでは、死を主題とした作品が流行。宗教改革が始まるとカトリックとプロテスタントの間で宗教画の扱いが変わることとなり、偶像崇拝につながる聖人の絵画や彫刻、祭壇画などの宗教美術は下火になっていきます。北方ルネサンスの芸術家たちはそれまでの宗教画だけでなく、挿絵や肖像画のほか、風俗画や農民を主役にした風景画なども手がけるようになりました。

透明感のある緻密なフランドル絵画

ヤン・ファン・エイク『アルノルフィーニ夫妻の肖像』

ヤン・ファン・エイク『アルノルフィーニ夫妻の肖像』

北方ルネサンス・フランドル絵画(ネーデルラント絵画)の代表的な画家としては、ヤン・ファン・エイク(ファン・エイク兄弟)、ロベルト・カンピン、ロヒール・ファン・デル・ウェイデンらが挙げられます。もともと写実表現が得意であったネーデルラント絵画ですが、これまでの卵と顔料を混ぜ合わせたテンペラ、生乾きの漆喰に直接描いていくフレスコ技法のほかに油彩画が登場したことでその傾向に拍車がかかり、ヤン・ファン・エイクは透明な油絵具を重ねて描くグレーズ法を完成させました。

油絵具の発達により、写実表現フランドル地方の画家たちは聖書の世界を自分達の日常生活のなかに溶け込ませた宗教画も描いています。

幻想的な独特の世界観が広がる作品を手がけたヒエロニムス・ボスピーテル・ブリューゲル(父)もフランドル絵画の画家です。

デューラーら巨匠を生んだドイツ

デューラー『アダムとエヴァ』

アルブレヒト・デューラー『アダムとエヴァ』

宗教戦争が起こったドイツでは、カトリックとプロテスタントが分裂したことにより宗教画の流れにも変化が見られ、ルターやエラスムスなどの肖像画も描かれるようになります。

デューラークラーナハ、グリューネヴァルト、アルトドルファーらが活躍し、デューラーは木版画『ヨハネの黙示録』やイタリアルネサンスの色彩や遠近法を取り入れた絵画、クラーナハは宗教改革の立役者ルターの肖像画や独特の女性美を追求した絵画、グリューネヴァルトは中世美術のような祭壇画、アルトドルファーは風景描写が美しい宗教画などを制作しました。

北方ルネサンスの絵画・代表作

北方ルネサンスの特に有名な作品は芸術家別ページにまとめました

アルトドルファー『アレクサンドロス大王の戦い』

アルトドルファー『アレクサンドロス大王の戦い』

アルトドルファー『アレクサンドロス大王の戦い(イッソスの戦い)』は、紀元前333年にアレクサンドロス大王がペルシア王ダレイオス3世の軍に勝利した様子が描かれた油彩画。太陽や渦巻く雲の下には雄大な景色が広がり、無数の人々もまるで風景の一部かのような絵画です。

アルトドルファーは、北方ルネサンスのなかでも初期のクラーナハらと共にドナウ派を代表する画家となり、ドラマチックで雄大な風景画を得意としました。

作品名:アレクサンドロス大王の戦い(イッソスの戦い)
作者:アルブレヒト・アルトドルファー
制作年:1529年
種類:板、油彩
寸法:158.4cm×120.3cm
所有者:アルテ・ピナコテーク(ドイツ)

カルトン『アヴィニョンのピエタ』

カルトン『アヴィニョンのピエタ』

カルトン『アヴィニョンのピエタ』は、十字架から下ろされたキリストを膝に抱えて嘆き悲しむ聖母マリアを描いた宗教画です。十字架から降ろされたキリストを抱きかかえて嘆き悲しむ聖母マリアの姿を描いた絵画や彫刻をピエタと呼び、これまで多くの芸術家がピエタを主題にした作品を制作してきました。

この作品では、キリストの右側で香油壺を手にし涙しているのはマグダラのマリア、キリストの頭をなでるようなしぐさをしているのは使途ヨハネ、一番左にいるのは寄進者とみられています。

作品名:アヴィニョンのピエタ
作者:アンゲラン・カルトン
制作年:1455-1456年
種類:板、油彩
寸法:163cm×218cm
所有者:ルーヴル美術館(フランス)

ロベルト・カンピン『受胎告知』

カンピン『受胎告知』

ロベルト・カンピン『受胎告知』は、メロード祭壇画の中央部にあたる絵画で、まるで日常のような現実味の室内で読書をする聖母と大天使が描かれています。聖母の座る椅子など人物と室内装飾品のバランスが狂っており、微妙な遠近法が多少の違和感を感じさせます。

北方ルネサンスでは、このように日常の風景と聖書の登場人物を組み合わせた宗教画も描かれていました。

作品名:受胎告知(メロードの祭壇画より)
作者:ロベルト・カンピン
制作年:1425-1428年頃
種類:板、油彩
寸法:64cm×63cm
所有者:メトロポリタン美術館別館クロイスターズ(アメリカ・ニューヨーク)

グリューネヴァルト『イーゼンハイム祭壇画』

グリューネヴァルト『キリストの磔刑(イーゼンハイム祭壇画)』

『イーゼンハイム祭壇画(キリストの磔刑)』は、病院が付属している修道院のために描かれたイーゼンハイム祭壇画の第1面。祭壇は扉の表裏に絵が描かれ、扉の奥には聖アントニウスの木像が安置されています。イエスの打ちつけられた痛々しい手、ねじれた腕と脚、傷だらけの痩せた身体、卒倒するマリアの様子などがゴシックを感じさせる作品です。

宗教戦争のなかで画家グリューネヴァルトはルター派に転じ、画家を廃業しました。

作品名:イーゼンハイム祭壇画(キリストの磔刑)
作者:グリューネヴァルト
制作年:1512-1516年
種類:板、油彩
寸法:269cm×307cm
所有者:ウンターリンデン美術館(フランス)

コンラート・ヴィッツ『奇跡の漁り』

コンラート・ヴィッツ『奇跡の漁り』

コンラート・ヴィッツ『奇跡の漁り』は、奇跡の漁り、水上を歩くキリスト、復活後に使徒を呼ぶキリストを1つの作品にまとめた宗教画。スイスで活躍した画家コンラート・ヴィッツはキリストの背景にレマン湖の実景を写実的に描いており、これは当時としては画期的なことでした。

作品名:奇跡の漁り
作者:コンラート・ヴィッツ
制作年:1444年
種類:板、テンペラ
寸法:132cm×154cm
所有者:ジュネーヴ美術・歴史博物館(スイス)

フーケ『ムランの聖母子』

フーケ『ムランの聖母子』

フーケ『ムランの聖母子』はエティエンヌ・シュヴァリエのための二連祭壇画の一部で、この聖母子は右翼側になります(左翼側はアントワープ王立美術館所蔵)。聖母のモデルはシャルル7世の妾アニエス・ソレル。剃り挙げた頭と青白い肌が未来的にも見える聖母と、赤と青で描き分けられた天使との色彩の対比が鮮やかです。

独自の写実表現を追及したフーケは、装飾写本作家としても高い評価を得ており、フランスで15世紀最高と称される芸術家でした。

作品名:ムランの聖母子
作者:ジャン・フーケ
制作年:1450年
種類:板、油彩
寸法:94.5cm×85.5cm
所有者:アントワープ王立美術館(ベルギー)

ムーランの画家『聖母戴冠』

ムーランの画家『聖母戴冠』

ムーランの画家『聖母戴冠』は、ムーラン大聖堂の三翼大祭壇画。中央には聖母子と天使、左翼はブルボン公爵ピエール2世、右翼は妃アンヌ・ド・ボージューと娘シュザンヌが描かれています。

作者不詳のためムーランの画家と呼ばれていますが、最近では初期フランドルの画家ジャン・エイ(一部リヨンの画家でムーランのボージュー家の宮廷に仕えたジャン・プレヴォーとも)と同一視する説があります。

作品名:聖母戴冠
作者:ムーランの画家
制作年:1498年
所有者:ムーラン大聖堂(フランス)

メムリンク『聖母子』

メムリンク『聖母子』1メムリンク『聖母子』2

ハンス・メムリンク『聖母子』は、2枚のパネルで構成される2連画です。パネルの左に聖母子、右には注文主であるマールテン・ファン・ニーウウェンホーフェが描かれています。

メムリンクはロヒール・ファン・デル・ウェイデンに師事、大規模な工房で成功し、資産家となりました。

作品名:聖母子
作者:ハンス・メムリンク
制作年:1487年
種類:板、油彩
寸法:44cm×33cm※1枚
所有者:メムリンク美術館(ベルギー)

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