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北方ルネサンス

ヒエロニムス・ボス

投稿日:2018年9月5日 更新日:

ヒエロニムス・ボスってこんな人

ヒエロニムス・ボス Hieronymus Bosch

ボス肖像画ヒエロニムス・ボスは、北方ルネサンス・初期フランドル派を代表する画家です。

ボスは、ネーデルラントのスヘルトーヘンボスで工房を営む、父親や祖父、兄も画家という裕福な家庭に生まれました。

家族で教会の仕事を手伝うなど敬虔なカトリック教徒として育ったボスは、腐敗した宗教界や世の中、堕落した聖職者や人間たちに対する風刺と皮肉を込めた作品、摩訶不思議な生き物が登場する作品などを描き、その独特でユニークな作風は王侯貴族からも愛されました。

ボスがネーデルラントで生涯を終えると、その後しばらくボスの名は忘れ去られてしまいます。再びボスの作品に注目が集まり再評価されたのは20世紀初頭のことでした。

ボスが活躍した北方ルネサンスとは

ローマから見て北側、アルプスより以北のイタリア以外のヨーロッパで始まった美術が北方ルネサンスです。ネーデルラント、ドイツ、フランスなどヨーロッパの国々とルネサンス運動が盛んだったイタリアとの交流が進み、イタリアに芸術家たちが自国にイタリアルネサンス美術のエッセンスを持ち帰ったことも、北方ルネサンスに多大な影響を与えました。油絵具を使い始めた北方ルネサンスの芸術家たちの作品は緻密な表現力が特徴です。

ヒエロニムス・ボスは生涯ネーデルラントで活躍した初期フランドル派の画家です。

ヒエロニムス・ボスのここがすごい

ボス独特の世界観と愛すべきキャラクターたち

小さな生き物やアイテムにまで寓意を込めたり、奇想天外でユニークな生き物を登場させたり、ボスの作品には画面の隅々まで味わい尽くしたい不思議な魅力が詰まっています。ユーモラスなだけでなく、知的な魅力に溢れるボスの作品は社会的地位の高い人々にも愛され、スペインのフェリペ2世はボスの熱心なコレクターでした。

この画像は『快楽の園』という祭壇画の一部分です。作品に自らの自画像を紛れ込ませる芸術家がいますが、ボスの場合は紛れこませた自画像の身体が卵と木で出来ています。また、祭壇画とは思えない不思議な生き物も多数描かれています。ボスの手にかかれば祭壇画ですら不思議な世界観と宗教観が同居したものになってしまうのです。

なぜ、ボスの世界観はこれほどまでに独特なものになったのでしょうか。

工房を営む裕福な家で暮らしていたボスは、お金の心配や注文主の要求に怯えることなく、自由に創作活動に打ち込むことができたと考えられます。ボスが亡くなったのは1516年、宗教改革が始まる直前です。熱心なカトリック教徒だったボスにとって、宗教改革前の世の中には言いたいことがたくさんあったのでしょう。また、そうした環境を憂う時間もあったのでしょう。ボスの父や兄弟も画家であり、幼い頃から芸術に触れる機会があったこと、自由に創作に打ち込める時間や環境が整っていたことがボスの奇想天外で独特な世界観のベースになっていたのではないでしょうか。

独特の世界観を築き、北方ルネサンスのなかでも我が道を突き進んだボスの精神や作風は、その後ピーテル・ブリューゲル(ブリューゲル・父)へと受け継がれていきました。


ヒエロニムス・ボスの作品・代表作

ヒエロニムス・ボス『七つの大罪と四終』

ヒエロニムス・ボス『七つの大罪と四終』ヒエロニムス・ボス『七つの大罪と四終』は、スペイン王フェリペ2世のエスコリアル城内の王寝室に飾られていた作品。中央の大きな円にの中央には主イエスの姿と銘文「汝ら心せよ、主は見そなわし給う」、その周囲には七つの大罪である「暴食」「色欲」「強欲」「憤怒」「怠惰」「傲慢」「嫉妬」が描かれています。画面4隅の小さな円に描かれているのは四大終事である「死」「最後の審判」「天国」「地獄」です。

作品名:七つの大罪と四終
作者:ヒエロニムス・ボス
製作年:1480-1490年
種類:板、油彩
寸法:120cm×150cm
所有者:プラド美術館(スペイン・マドリード)

ヒエロニムス・ボス『十字架を担うキリスト』

ヒエロニムス・ボス『十字架を担うキリスト』ヒエロニムス・ボス『十字架を担うキリスト』は、磔刑に使用する十字架を背負いうなだれるように歩くイエス・キリストとその周囲にひしめく人々を描いた油彩画。画面いっぱいに描かれた人々の表情は、人間の内面に潜む醜さ、いやらしさをそのまま表しているようにも見え、強烈なインパクトのある作品となっています。

作品名:十字架を担うキリスト
作者:ヒエロニムス・ボス
製作年:1485-1490年
種類:板、油彩
寸法:76.7cm×83.5cm
所有者:ヘント美術館(ベルギー)

ヒエロニムス・ボス『快楽の園』

ヒエロニムス・ボス『快楽の園』1503-1504年ヒエロニムス・ボス『快楽の園』は、ボス作品でもっとも有名な三連祭壇画で、ブリュッセルにある貴族私邸のために制作されました。3枚で1セットの祭壇画は左からエデンの園、快楽の園、地獄という構成で、左右の扉を閉めると黒地に地球が描かれた扉絵が現れる仕組みです。

エデンの園にはアダムとエヴァや神の創造を見守るフクロウ、エヴァを誘惑しようとする蛇や知恵の木などが、快楽の園には不思議な生き物や快楽に溺れるたくさんの人々が、地獄には大食いの罰を受ける生き物、ブタの尼僧に言い寄られ署名を強要される男など恐ろしい世界が描かれています。

こうした表現は教会の祭壇画には適さないでしょうが、魚が地面を這うなど画面のどこを見ても常識を逸脱したユニークな世界観、独特な表現のなかにたくさんの寓意がこめられメッセージ性の強い宗教観がボスらしい作品です。

作品名:快楽の園
作者:ヒエロニムス・ボス
製作年:1503-1504年
種類:油彩、祭壇画
寸法:220cm×389cm
所有者:プラド美術館(スペイン・マドリード)

ヒエロニムス・ボス『放蕩息子』

ボス『放蕩息子』ヒエロニムス・ボス『放蕩息子』は、ルカによる福音書・第15章「放蕩息子」をもとに描かれたといわれる油彩画。中央にはみすぼらしい身なりをした初老の男、背後に見える建物は売春宿です。男は未練がましい様子で後ろを振り返っており、先に進むのか、自堕落な生活に戻るのかの岐路に立たされているかのように見えます。

2017年ブリューゲル・バベルの塔展(東京都美術館)に『聖クリストフォロス』とともに来日し、話題になった作品です。

作品名:放蕩息子
作者:ヒエロニムス・ボス
製作年:1480-1490年頃
種類:板、油彩
寸法:71.5cm×71.5cm
所有者:ボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館(オランダ・ロッテルダム)

ヒエロニムス・ボス『石の切除手術』

ヒエロニムス・ボス『石の切除手術』ヒエロニムス・ボス『石の切除手術』は、頭から石を取り除けば阿呆が治るという迷信を題材に人間の愚かさを描いた作品。宗教画を描いていたボスにしては珍しい世俗的な作品です。

ネーデルラントには、人間の頭の中には石が入っており、その石が大きくなると頭のおかしい狂人になる、まっとうな人間に戻るためには医者に石を取り除いてもらわなければならないというバカバカしい考えを元にしたことわざがありました。野原の真ん中で怪しい身なりをした医者に頭を切開される男の頭からは石ではなく花が取り出されています。登場人物の誰もが胡散臭いこの作品は、バカな話に騙される人間の愚かさを表しているのです。

作品名:石の切除手術
作者:ヒエロニムス・ボス
製作年:1475-1480年頃
種類:板、油彩
寸法:49cm×35cm
所有者:プラド美術館(スペイン・マドリード)

ヒエロニムス・ボス『干草の車』

ボス『干草の車』1500-1505年頃ヒエロニムス・ボス『干草の車』は明るく鮮やかな世界の中に砂上の楼閣のような虚しさを描いた三連祭壇画。左はアダムとエヴァ、中央に干草の車、右は地獄が表されています。

構成は前述の『快楽の園』同様ですが、中央の車には大量の干草が積まれている点が大きく異なります。干草は富を表しており、干草の上には音楽を楽しむ男女や天使の姿、干草車の下には車に轢かれて苦しむ人、ハシゴをかけて干草に上ろうとする人、けんかをする人、自分勝手な行いに耽る人々などが描かれます。欲望によって楽園から追放された人間は、さらに欲にまみれ、私利私欲に走り、そして地獄に落とされるのです。

作品名:干草の車
作者:ヒエロニムス・ボス
製作年:1500-1505年頃
種類:板、油彩
寸法:147cm×212cm
所有者:プラド美術館(スペイン・マドリード)

北方ルネサンスの代表的な芸術家リスト

-北方ルネサンス

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