水差しを持つ女
作品解説
『水差しを持つ女』は窓辺の明るい光のなかで水差しを持つ女性を描いたヨハネス・フェルメールの風俗画。1664年~1665年頃に製作された油彩画で、現在はアメリカのメトロポリタン美術館に所蔵されています。
テーブルの上の水差しと洗面器は純潔と節制の象徴とされており、その横に見える宝石は虚栄をあらわします。女性は左手で水差しを持ったまま窓を開け、目線は窓の外へ。窓の外に水差しの水を捨てようとしているのか、それとも窓の外の植物に水でもあげようとしているのか。もし、水を捨てようとしているのであれば、女性は純潔と節制を捨て、虚栄に走ろうとしているのでしょうか。
綿密に練られた構図に、明るく柔らかい光と青く清々しい空気感が満ちた、フェルメールの傑作です。
鑑賞のポイント
計算された日常の一コマ
『水差しを持つ女』を分割し、構図の秘密を探ってみましょう。
まず、画面全体を4分割します。女性のシルエットは中央で三角形のシルエットを形作っており、頭の高さ(頭巾から顎までの長さ)は右の窓の高さの約1/4、女性の右手の高さは窓の高さの1/2辺りになります。また、女性が持つ水差しは、女性の三角形のシルエットのすぐ外側、地図の左端から垂直に下がった位置に置かれています。テーブルの幅は画面の幅1/2を占めています。
次に、画面全体を4分割したときにできる右上のマスを見てみましょう。地図の幅は画面全体を1/3にした長さ、地図の下端は右の窓の1/2の高さになっています。
最後に、物がたくさん置かれている右下のマスを更に4分割します。テーブルは右下マスの1/2の高さ、椅子は右下マスの1/2の幅、椅子の背もたれは更に小さなマスの1/2の高さになっています。
日常のありふれた一コマを優しく切り取ったように見える『水差しを持つ女』の裏には、フェルメールの緻密な計算がありました。この絵画に存在するもの全てが計算された構図に配置されているのです。
柔らかな表現とフェルメールブルー
水差しを持つ女性の頭髪は『天秤を持つ女』同様に全て白い頭巾で覆われており、若い修道女のようにも見えます。女性の表情は淡く、境界線も穏やかで、水差しや洗面器の緻密な表現とは異なる柔らかな雰囲気が感じられます。
女性が着ているラインの入った袖や絞ったウエストが特徴的な衣服は、『窓辺で手紙を読む女』の女性が着ているものとよく似ています。肩のケープにより襟の形は不明ですが、同じ衣服なのかもしれません。
女性の衣服の袖やスカート部分の鮮やかな青は、ラピスラズリの成分を顔料にしたフェルメールブルー(ウルトラマリンブルー)。このフェルメールブルーは女性の衣服以外にも使われており、たとえば白い頭巾やケープの影、透明感のある窓ガラス、壁や水差しの反射にもフェルメールブルーが薄く塗られています。『水差しを持つ女』が発する清々しさや澄んだ空気感は、フェルメールブルーにより作品全体が青みがかっていることと関係していると言えそうです。
フェルメールは鮮やかなフェルメールブルーを大変気に入り、『真珠の耳飾りの少女』『牛乳を注ぐ女』『青衣の女』『デルフトの眺望』などにも使用しました。
フェルメールの技が詰まった水差し
タペストリーが敷かれたテーブルには水差しと洗面器。水差しや洗面器は純潔を暗示しており、白い頭巾を被った女性の清潔感とマッチするアイテムといえます。光を反射する水差しと洗面器の表現、さらには下に敷かれたタペストリーの映りこみまで、フェルメールの繊細で緻密な技がこの小さなアイテムに詰まっています。
洗面器の横に置かれた小物入れから覗いているのは真珠の首飾り。純潔を示す水差しと、虚栄を示す宝石が並んだテーブルは戒めの寓意とも考えられます。
基本情報
フェルメール展・開催中
2018年秋より東京・上野にてフェルメール展開催中、2019年2月からは大阪に巡回予定です。フェルメール展の展示作品や混雑状況、チケットの購入方法など別記事にまとめましたので、お出かけの参考になさってください。
●フェルメール展
上野の森美術館 2018年10月5日~2019年2月3日
大阪市立美術館 2019年2月16日~2019年5月12日
ヨハネス・フェルメールとは
フェルメールの生涯・作品・鑑賞ポイント
ヨハネス・フェルメールは、光の魔術師とも呼ばれるバロック美術の巨匠です。柔らかな光の溢れる油彩画を得意とし、代表作に『真珠の耳飾りの少女』『牛乳を注ぐ女』『デルフトの眺望』などがあります。フェルメールは現存する作品が大変少なく、寡作の画家としても知られます。
YouTube動画 フェルメール全作品集
ヨハネス・フェルメールの全作品を4分にまとめた動画をYouTubeにアップしました。動画は今後も画家別に作っていく予定です。よろしければチャンネル登録をお願いいたします。