牛乳を注ぐ女
作品解説
『牛乳を注ぐ女』は、柔らかい光のなかで牛乳を壷に移しかえるふくよかな女性がモデルのヨハネス・フェルメールによる風俗画。1658年~1660年頃に描かれた油彩画で、現在はアムステルダム国立美術館に所蔵されています。
NHK・Eテレのびじゅチューン!『何にでも牛乳を注ぐ女』のモデル作品として取り上げられたことも記憶に新しい作品です。
オランダの風俗画では牛乳を注ぐ場面が描かれることは特段珍しいことではなかったようで、フェルメールの作品では、今まさに牛乳が別の容器に移しかえられようとする瞬間が切り取られています。
牛乳を注ぐ女の右手脇には一点透視図法に使われたと思われる穴が残っており、フェルメールの計算された構図には、正確な遠近法が用いられていることが分かります。
死後200年も経ってから高い評価を得たフェルメールですが、この『牛乳を注ぐ女』は当時から評判が良かったようです。
鑑賞のポイント
牛乳を注いでいる女性は誰?
『牛乳を注ぐ女』の英語タイトルである『The Milkmaid』を直訳すると「乳しぼりの女」ですが、この作品で牛乳を注いでいる女性は、この家で働く若いメイド(女中)です。メイドは質素な身なりながら、上品な佇まいで落ち着いた雰囲気を醸しだしています。
裕福な暮らしをしている上流階級の人々を描くことが多いフェルメールの作品には、主人と共にメイドが描かれることがありますが、仕事中のメイドを単体で描いている作品はこの『牛乳を注ぐ女』以外にありません。
現実には有り得ない牛乳の描写
牛乳を注ぐ女は、ほぼ水平になるように牛乳壷を持って牛乳を注いでいます。ということは、本当なら壷の入り口に壷のなかの牛乳が見えているはず。しかし『牛乳を注ぐ女』では今まさに注がれる牛乳だけが表現され、壷のなかの牛乳はまったく見えません。
実際には有り得ない様子を描くことで、注がれる牛乳に注目させる狙いがあったのでしょう。注がれている牛乳が螺旋を描いている様子からは、牛乳のとろみまでもが感じられるようです。
フェルメールブルーとイエローの服
画面の中で目を引くのが牛乳を注ぐ女が着ているイエローとブルーの服。特にスカートのエプロン部分は濃く鮮やかなブルー色で、このブルーにはウルトラマリンブルー(ラピスラズリを原料とする高価な顔料)が用いられています。この青の表現はフェルメールブルーとも呼ばれ、女性の黄色いトップスとフェルメールブルーが補色関係にあることで、より一層目を引く仕掛けです。
フェルメールは、フェルメールブルーとイエローの組み合わせを好んで使いました。このブルーとイエローの補色関係は後の印象派やゴッホの作品にも大きな影響を与えることになります。
室内に差し込む光とポワンティエ
絵画に細かな白い点を点描することでハイライトを表現する技法をポワンティエといいます。『牛乳を注ぐ女』では、テーブルに置かれた籐の籠やパンに粒々した白い点が描かれており、フェルメールがこの作品にポワンティエ技法を用いていることが分かります。
引き算の美学が生きる牛乳を注ぐ女
X線検査により、当初『牛乳を注ぐ女』の壁には世界地図が描かれていたこと、牛乳を注ぐ女の足元にある足温器が描かれている辺りには洗濯籠が置かれていたことが分かっています。世界地図や洗濯籠を減らし、白い壁と小物の少ない台所にまとめたことで、牛乳を注ぐ女とパンが置かれたテーブルに視線を集めることに成功しています。
部屋の小物まで行き届く静謐な表現
全盛期のフェルメールは室内の小物なども静謐に描きました。この『牛乳を注ぐ女』では、メイドの右後ろにある足温器、壁にかかるパンを入れる籐の籠に当たる光、その後ろにある金属容器の輝きなども、まるで写真を見ているかのように生き生きと描きだしています。
基本情報
フェルメール展・開催中
●フェルメール展
上野の森美術館 2018年10月5日~2019年2月3日
大阪市立美術館 2019年2月16日~2019年5月12日
ヨハネス・フェルメールとは
フェルメールの生涯・作品・鑑賞ポイント
ヨハネス・フェルメールは、光の魔術師とも呼ばれるバロック美術の巨匠です。柔らかな光の溢れる油彩画を得意とし、代表作に『牛乳を注ぐ女(本作品)』『真珠の耳飾りの少女』『デルフトの眺望』などがあります。現存する作品が大変少なく、寡作の画家としても知られます。
YouTube動画 フェルメール 全作品集
ヨハネス・フェルメールの全作品を4分にまとめた動画をYouTubeにアップしました。動画は今後も画家別に作っていく予定です。よろしければチャンネル登録をお願いいたします。