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『ラス・メニーナス』ディエゴ・ベラスケスの作品解説

ラス・メニーナス(女官たち・宮廷の侍女たち)

ラス・メニーナス作品解説

ベラスケス『ラス・メニーナス』1656年プラド美術館1656年プラド美術館

ディエゴ・ベラスケスの生涯と代表作・作品解説はこちら

ラス・メニーナス』はバロックの巨匠であるスペインの画家ディエゴ・ベラスケスによる油彩画。『女官たち』『宮廷の侍女たち』とも。1656年に制作された大型の油彩画で現在はスペインのプラド美術館に所蔵されています。

1666年の蔵品目録に『家族の絵』『王家一家』の題で記録があり、宮廷の侍女たちを指す『ラス・メニーナス』という作品名は19世紀に入ってから付けられたものです。

画面の右側と正面から差し込む光によってもっとも明るく照らし出されているのは中央にいるマルガリータ王女。王女を照らす光より少し柔らかい光によって侍女や慰め者たち、更に薄暗いなかに付き人やベラスケスといったように、光の明度によって遠近感が表現されています。

スペイン史上最高の名画とも言われるベラスケスの『ラス・メニーナス』は、多くの芸術家に影響を与え、サージェント、ピカソ、フランシス・ベーコンらの作品モティーフに用いられました。特にピカソにおいては『ラス・メニーナス』から受けたインスピレーションをもとに58枚もの連作を制作しています。

本作『ラス・メニーナス』は、人気TV番組びじゅチューン!(NHK・Eテレ)『ラス・メニーナス、開演前』のモデル作品にも取り上げられました。

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ラス・メニーナス鑑賞のポイント

ラス・メニーナスに描かれた人物たち

ラス・メニーナスの登場人物たち

『ラス・メニーナス』には間接的な表現も含めて11人もの人物が描きこまれています。

一番左でキャンバスに向かっているのはベラスケス。中央のマルガリータ王女の左の侍女がドーニャ・マリア・アウグスティーナ・デ・サルミエント、右の侍女がドーニャ・イザベル・ベラスコ。侍女の右側に居る慰め者2人は左がマリア・バルボラ、右の犬に足を乗せているの画ニコラシート・ペルトゥサート。侍女や慰め者の後ろに立つ2人は王妃の侍女であるドーニャ・マルセーラ・ウリョーアとドン・ディエゴ・ルイス・デ・アスコーナ、後ろの明るい戸口に立っているのは宮廷の式部官であったドン・ホセ・ニエート。フェリペ4世と王妃マリアーナは壁にかかる鏡に映りこむ形で描かれています。

ベラスケスは誰を描いているのか

スペイン・マドリードのアルカザール宮殿にベラスケスの大きなアトリエがありました。『ラス・メニーナス』の舞台はこのベラスケスのアトリエだと考えられます。

ベラスケスは『ラス・メニーナス』のなかで大きなキャンバスに向かって作品を制作中していますが、この『ラス・メニーナス』の左端にある大きなキャンバスにはいったい誰が描かれているのでしょうか。

その候補には2つの説があります。

●絵のモデルはフェリペ4世夫妻

1つ目は、ベラスケスはキャンバスの外側(私たち鑑賞者側)にいるフェリペ4世夫妻を描いているという説。肖像画のモデルとなっているフェリペ4世夫妻はベラスケスの後ろの壁にかかる鏡のなかに映りこんでおり、ベラスケスやマルガリータ王女の目線はフェリペ4世夫妻がいる方向を向いています。この説の通りであるなら、『ラス・メニーナス』は王の目線で描かれた作品だということになります。

ベラスケスの横にいるマルガリータ王女は、夫妻の絵画制作のそばで何かをせがんでいるのでしょうか。王夫妻の肖像画政策の邪魔にならないよう、侍女がマルガリータ王女に飲み物を差し出し気を引こうとしているのかもしれません。

●絵のモデルはマルガリータ王女

ラス・メニーナスのマルガリータ王女

2つ目は、ベラスケスは目の前にいるマルガリータ王女を描いているという説。この説の通りであるなら、じっとしていられない年頃のマルガリータ王女のために、王女の身の回りの世話をする侍女だけでなく、王女を楽しませる慰め者たちもアトリエにやってきているのだろうと考えられます。マルガリータ王女をことのほか可愛がっていたといわれるフェリペ4世は、夫妻でマルガリータ王女の様子を見に来たところなのかもしれません。

鏡のなかに映るフェリペ4世夫妻の様子は、肖像画モデルとしてポーズを取っているようにも、マルガリータ王女の様子を微笑ましく見学しているようにも見え、どちらの解釈が正しいのか意見が分かれるところです。

ベラスケスの胸元に描かれた十字の謎

ラス・メニーナスに描きこまれたベラスケス『ラス・メニーナス』のなかに描かれたベラスケスの胸元にはサンディアゴ騎士団の赤い十字章が描かれています。しかし、ベラスケスが爵位を受けたのは1959年であり、『ラス・メニーナス』を描いたとされる1656年の時点ではベラスケスにはナイトの称号は与えられていませんでした。

そのため、この赤い十字章は後から描き加えられたものと考えられますが、ベラスケスが爵位を受けた年にベラスケス本人が描き加えたという説、ベラスケスの死後、王の指示により宮廷内の画家が描き加えたという説など諸説あり、誰がいつ描いたものなのか確定していません。

王族と共に描かれた慰め者たち

ラス・メニーナスの慰め者たち

ベラスケスは宮廷画家としてフェリペ4世や王族関係者の肖像画を多く手がけたほか、宮廷に暮らす慰め者と呼ばれる道化や矯人たちの肖像画も残しており、この『ラス・メニーナス』にも2人の慰め者が描かれています。

王族と慰め者がひとつの絵画に収まるのは大変珍しいことであり、王と慰め者をひとつの絵画に収めるわけにはいかずフェリペ4世を鏡の中に置いたとする説もあります。

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基本情報

作品名:ラス・メニーナス(女官たち)
Title:The family of Felipe IV (Las Meninas)
作者:ディエゴ・ベラスケス
Artist:Diego Velazquez
制作年:1656年
種類:油彩、キャンバス
寸法:318cm×276cm
所有者:プラド美術館

ディエゴ・ベラスケスの生涯と代表作・主要作品一覧
ディエゴ・ベラスケスはスペインで活躍した宮廷画家でありヨーロッパの絵画史上最大の肖像画家のひとりにも数えられるバロック美術の巨匠です。ベラスケスの代表作に『ラス・メニーナス』『ブレダの開城』『教皇インノケンティウス10世』『鏡のヴィーナス』などがあります。ベラスケスはフェリペ4世や王族関係者、侍女や道化などスペイン王宮に住まう人々の肖像画も多く手がけました。
『ブレダの開城』ディエゴ・ベラスケスの作品解説
『ブレダの開城』はスペインの宮廷画家ディエゴ・ベラスケスの代表作。フェリペ4世の離宮レティーロ「諸王国の間」を飾った戦勝画のひとつ。『槍』『ラス・ランサス』とも。1634年~1635年頃に制作された油彩画で、マドリードにあるレティーロ王宮「諸王国の間」で公開され、1819年以降はプラド美術館に所蔵されています。
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