手紙を書く婦人と召使い
作品解説
『手紙を書く婦人と召使い』はヨハネス・フェルメールによる風俗画。1670年頃に制作された油彩画で、フェルメール晩年にあたる時期の作品です。
個人所蔵であった『手紙を書く婦人と召使い』は2度も盗難の被害に遭っていますが、幸いどちらの盗難でも犯人逮捕によって作品を取り戻すことができ、現在はアイルランド国立絵画館に所蔵されています。
識字率が高く郵便制度が発達していたオランダでは、一般家庭の女性も文字の読み書きができ、手紙のやりとりはブームといえるほど盛り上がっていました。フェルメールの作品にも手紙を読み書きする女性が何人か登場しており、これもそのうちの1点です。
白い頭巾を被り手紙をしたためているのがこの家の婦人、婦人の後ろには窓の外を眺めながら婦人が手紙を書き終えるのを待っている召使いがいます。タイルの床、左側の窓から差し込む光、テーブルに敷かれたタペストリーなど、他のフェルメール作品でも見ることのできるアイテムが何点も描きこまれています。
鑑賞のポイント
晩年のフェルメールの変化
しかし、窓から射し込む光に半分だけ照らされた婦人の表情や白く浮かび上がる婦人の衣服には光の魔術師と異名を取った最盛期のフェルメールらしさが残っています。婦人のドレスの大きく膨らんだ袖は、この時代のオランダで流行していたファッションです。
散乱する紙や封蝋は緊急事態を暗示
婦人が手紙を書いているテーブルの前にはくしゃくしゃになった紙や手紙を作成する際に使用する封蝋が転がっています。テーブルの前に転がっている紙が婦人の元に届いた手紙なのか、婦人が書き損じたものなのかは分かっていませんが、婦人はテーブルの周囲に気遣う余裕がなく、よほど急いで手紙を書いているのだということが伝わってきます。
赤い封蝋と手前のスティックは作品の修繕作業によって明らかになったアイテムなので、もしかしたら、フェルメール自身はこの慌てた雰囲気を消そうとしたのかもしれません。
画中画モーセの発見の意味
旧約聖書の『出エジプト記』によると、モーセの発見は、イスラエル人の男児を殺せというファラオの命により、このままではイスラエル人ナビ族である自分が産んだ赤ん坊のモーセも殺されると危惧したモーセの母親が、モーセを葦舟に乗せてナイル川に流し(川辺に置いたとも)、葦舟に乗せられてナイル川を流れて行ったモーセは川下にいたファラオの王女に救われ成長するというお話です。モーセには「水から救われた者」という意味があります。
この画中画の存在により、婦人がしたためている手紙の内容は子供に関することではないかとも考えられます。女性の手前に空の椅子が置かれていることから、不在の夫に子供の緊急事態を伝えているのかもしれません。
我関せずな召使いの視線
基本情報
フェルメール展・開催中
『手紙を書く婦人と召使い』は2018年秋スタートのフェルメール展に展示されます。この機会にぜひ本物の名画をご覧ください。
●フェルメール展
上野の森美術館 2018年10月5日~2019年2月3日
大阪市立美術館 2019年2月16日~2019年5月12日
ヨハネス・フェルメールとは
フェルメールの生涯・作品・鑑賞ポイント
ヨハネス・フェルメールは、光の魔術師とも呼ばれるバロック美術の巨匠です。柔らかな光の溢れる油彩画を得意とし、代表作に『真珠の耳飾りの少女』『牛乳を注ぐ女』『デルフトの眺望』などがあります。フェルメールは現存する作品が大変少なく、寡作の画家としても知られます。
YouTube動画 フェルメール全作品集
ヨハネス・フェルメールの全作品を4分にまとめた動画をYouTubeにアップしました。動画は今後も画家別に作っていく予定です。よろしければチャンネル登録をお願いいたします。