カラヴァッジョ作『聖マタイの召命』作品解説
『聖マタイの召命』作品解説
『聖マタイの召命』は、初期バロック美術の巨匠・カラヴァッジョによる油彩画。1600年頃に制作され、祭壇画としてサン・ルイジ・ディ・フランチェージ聖堂に設置されています。
カラヴァッジョによるサン・ルイジ・ディ・フランチェージ聖堂の祭壇画は、左に本作『聖マタイの召命』、中央に『聖マタイの霊感』、右に『聖マタイの殉教』が設置されており、マタイ三部作と呼ばれます。
カラヴァッジョの教会公式デビュー作である『聖マタイの召命』と『聖マタイの殉教』は、劇的な光と闇の表現テネブリズムを駆使した画面構成や、聖なるものと俗なるものを組み合わせたカラヴァッジョの作風が大きな話題を呼び、教会に訪れた多くの人々を魅了しました。この祭壇画によってカラヴァッジョは一気にスター画家へと躍り出ます。
バロックに影響を与えたカラヴァッジョのテネブリズム
闇のなかに差し込む一筋の光に照らされる人物たち。光の元に立つのが収税所を訪れたキリストで、キリストが指差す先に広がる光のなかに収税人・マタイがいます。
キリストがマタイを呼び出す召命の場面が、まるで主役がステージ上でスポットライトを浴びるかのように浮かび上がるカラヴァッジョの名演出。劇的な光と闇のコントラスト・テネブリズムを駆使したカラヴァッジョのドラマティックな表現手法は、教会に訪れた信者たちを驚かせただけでなく、カラヴァッジョ以降のバロック美術にも大きな影響を与えました。
議論の的・果たして誰がマタイなのか?
イエスは、マタイという人が収税所に座っているのを見て「私に従ってきなさい」と言われた。すると彼は立ち上がって、イエスに従った。マタイは机に向かっている。机の上にはお金が見える。納税者たちが彼のところへやってくる。(マタイ福音書9:9)
カラヴァッジョ『聖マタイの召命』にはキリストが収税人・マタイを弟子に召令する場面が描かれていますが、キリストが指差している人物が誰なのか、光に照らされた人物のなかの誰が聖マタイなのかという点に関しては、現在でも議論が続いており、専門家の間で論争にも発展しました。
「キリストを見つめる髭をたくわえた男性がマタイ」という説が長らく有力でしたが確定はしておらず、近年は「左端で下を向き金勘定している若者がマタイ」という説が多く聞かれるようになっています。
『マタイの召命』登場人物たちの仕草に注目
キリストがマタイを招命する場面が描かれたカラヴァッジョ『聖マタイの召命』において、なぜ誰がマタイなのか確定することができないのか。その理由は『聖マタイの召命』に描かれた人物たちの様子・仕草にあります。
まず、椅子に腰掛けキリストを見つめている髭の男です。髭の男の左手は、自分自身を指差しキリストに向かって「私をお召しですか」と言っているようにも、左端で金勘定している若者を指差し「彼をお召しですか」と言っているようにも見えます。そして髭の男の右手は、左端の男の目の前で金を支払っているようにも、若者が支払いに来た税金を勘定しているようにも見えます。
次に、左端で金勘定している若者です。金勘定している若者の仕草は、髭の男たちが支払いにきた税金を数えている(=収税人)とも、左手に握る財布から渋々金を取り出し名残惜しそうに硬貨を数えている納税者にも見えます。
そして、近年の「左端で金勘定している若者がマタイ」説の根拠のひとつに「帽子の有無」があります。この時代の人物は外出する際に帽子を被っていたので、この場所が収税所であるならば、帽子を被っている髭の男は外からやってきた人間、左端で金勘定をしている若者とその後ろにいる眼鏡をかけた男はここで働いている収税人と解釈できます。
このように描かれている人物たちの様子や仕草により様々な解釈ができることから、専門家の間でも、カラヴァッジョが『聖マタイの召命』のなかで誰をマタイとして描いているのか結論が出ていないのです。
カラヴァッジョ『聖マタイの召命』基本情報
- 作品名:聖マタイの召命
- Title:The Calling of St Matthew
- 作者:カラヴァッジョ(カラヴァッジオ)
- 制作年:1599-1600年
- 種類:油彩、キャンバス
- 寸法:322cm×340cm
- 所有者:サン・ルイジ・ディ・フランチェージ聖堂(イタリア)