中断された音楽の稽古
作品解説
『中断された音楽の稽古』は、音楽のレッスンを中断した男女の様子を描いたヨハネス・フェルメールの風俗画。『稽古の中断』『中断されたレッスン』とも。1660年~1661年頃に制作された油彩画で、現在はアメリカのフリック・コレクションに所蔵されています。
女性が手に持っているのはおそらく手紙で、楽器や楽譜はテーブルの上に置かれていることから、『中断された音楽の稽古』は「音楽のレッスンを中断し手紙を読んでいる男女」が描かれた作品だと考えられます。
風俗画としての音楽
西洋美術史で語られる音楽は、聖書・教会と関係が深い場合が多いのですが、この『中断された音楽の稽古』が制作された当時のオランダはプロテスタントが主流であり、音楽は信仰ではなく娯楽として市民に親しまれていました。
オランダの上流階級の女性達は詩の朗読や楽器を持ち寄っての合奏などを楽しむ習慣があり、それはそのまま縁談に繋がる場でもあったため、女性たちは熱心に音楽の指導を受けました。
こうした背景から、17世紀オランダでは楽器を演奏する様子を風俗画の主題に選ぶことが多く、フェルメールの作品にも『音楽の稽古』『リュートを調弦する女』『合奏』『恋文』『ギターを弾く女』など楽器が何度も登場しています。
鑑賞のポイント
『中断された音楽の稽古』には、手前の女性が男性から音楽の指導を受けている場面が描かれており、一緒に手紙を読む男性と女性の距離の近さからは二人の親密な関係が伺えます。
印刷産業が発達していたオランダでは楽譜は一般に普及しており、音楽を楽しむ教養の高い市民たちは楽譜を読むことができました。
楽譜の奥にあるのはワイン入れ。男女の恋愛・誘惑を暗示するワインは二人が恋愛関係にあることを指しています。
ライオンの彫刻が付いた椅子はフェルメール絵画にしばしば登場するアイテムです。壁に飾られた画中画は損傷がひどく鮮明ではありませんが、手にカードを持ったキューピッドだということが分かっており、2人の恋愛関係を指しています。
窓の手前の壁に付けられた箱は鳥かごで、後からこの絵画に書き加えられたもの。鳥かごには女性の貞節を暗示しています。この男女は背徳の関係にあるのかもしれません。
基本情報
フェルメール展・開催中
2018年秋より東京・上野にてフェルメール展開催中、2019年2月からは大阪に巡回予定です。フェルメール展の展示作品や混雑状況、チケットの購入方法など別記事にまとめましたので、お出かけの参考になさってください。
●フェルメール展
上野の森美術館 2018年10月5日~2019年2月3日
大阪市立美術館 2019年2月16日~2019年5月12日
ヨハネス・フェルメールとは
フェルメールの生涯・作品・鑑賞ポイント
ヨハネス・フェルメールは、光の魔術師とも呼ばれるバロック美術の巨匠です。柔らかな光の溢れる油彩画を得意とし、代表作に『真珠の耳飾りの少女』『牛乳を注ぐ女』『デルフトの眺望』などがあります。フェルメールは現存する作品が大変少なく、寡作の画家としても知られます。
YouTube動画 フェルメール全作品集
ヨハネス・フェルメールの全作品を4分にまとめた動画をYouTubeにアップしました。動画は今後も画家別に作っていく予定です。よろしければチャンネル登録をお願いいたします。