取り持ち女
作品解説
『取り持ち女』は、いかがわしい商売をする女性と男を仲介・斡旋する婆が描かれたヨハネス・フェルメールによる油彩画。1656年に制作された作品で、現在はドレスデン美術館に所蔵されています。フェルメールの作品には制作年が記された作品が3点しかなく、残りの作品は正確な制作年が分かっていません。『取り持ち女』は制作年が分かっているフェルメールの作品のなかで最も古い作品です。
『取り持ち女』を「取り持ち女を中心とした風俗画」と見ることもできますが、聖書の「放蕩息子」をモティーフにしていると考えるのが最も自然でしょう。黄色い服を着た女性の肩を抱く男が放蕩中の息子です。手にしたワインのせいなのか、女性の顔はかなり紅潮しています。金貨を渡す男の後ろのニヤけた老婦人が作品のタイトルになっている『取り持ち女』で、画面の左端で薄笑いを浮かべながら放蕩息子と女性のやりとりを見ている男はフェルメールの自画像ではないかと言われています(他の作品から考えるとこの説は少々強引な気もしますが)。
男が女を金で買う様子が収められたこの絵画には、描かれている人物の内面のいやしさ・いやらしさ、登場人物の浮ついた気持ちが表れており、柔らかい雰囲気の作品が多いフェルメールの作品としては異色と言ってよいかもしれません。
プロテスタントの国オランダは宗教画の需要が大変少ない国でしたが、幸い当時のオランダには宗教画や神話画とは異なる世界観を絵画で自由に表現することが認められており、フェルメールはこの作品を境に風俗画へと転向していきます。
鑑賞のポイント
フェルメールが影響を受けた放蕩息子
フェルメール『取り持ち女』の主題は聖書の「放蕩息子」で、放蕩中の息子の様子が描かれています。同じ主題を描いた絵画には、カラヴァッジオ(カラヴァッジョ)の影響を受けたディルク・ファン・バビューレン『取り持ち女』(左)、レンブラント『酒場のレンブラントとサスキア(放蕩息子)』(右)などがあります。
フェルメールの義母はディルク・ファン・バビューレン『取り持ち女』を所有しており、フェルメールはこの絵画の影響を受けていたのでしょう。フェルメールの絵画『合奏』や『ヴァージナルの前に座る女』にも、ディルク・ファン・バビューレン『取り持ち女』が画中画として描きこまれています。
明暗表現により女性に注がれる鑑賞者の視線
描かれている人数が多い割に室内に奥行きが感じられないのは、フェルメールの画家としてのキャリアの浅さでしょうか。それとも狭い空間に押し込められた人間たちで秘密を分かち合っていることの表れでしょうか。
画面の下半分は静謐なタッチで描かれたタペストリーで遮られ、まず目に入るのは鮮やかで明るい黄色い服を着た女性、そして次に女性に触れる男の姿です。取り持ち女と左端の男は影で暗くはっきりとした明暗表現で描き分けられており、画面のこちら側の私たちの視線は自然と女性に注がれます。
基本情報
フェルメール展・開催中
『取り持ち女』は2018年秋スタートのフェルメール展に展示されます。フェルメール展の展示作品や混雑状況、チケットの購入方法など別記事にまとめましたので、お出かけの参考になさってください。
●フェルメール展
上野の森美術館 2018年10月5日~2019年2月3日
大阪市立美術館 2019年2月16日~2019年5月12日
ヨハネス・フェルメールとは
フェルメールの生涯・作品・鑑賞ポイント
ヨハネス・フェルメールは、光の魔術師とも呼ばれるバロック美術の巨匠です。柔らかな光の溢れる油彩画を得意とし、代表作に『真珠の耳飾りの少女』『牛乳を注ぐ女』『デルフトの眺望』などがあります。フェルメールは現存する作品が大変少なく、寡作の画家としても知られます。
YouTube動画 フェルメール全作品集
ヨハネス・フェルメールの全作品を4分にまとめた動画をYouTubeにアップしました。動画は今後も画家別に作っていく予定です。よろしければチャンネル登録をお願いいたします。