- ピーテル・ブリューゲル(父)とは?
- ピーテル・ブリューゲルの作品の特徴・鑑賞ポイント
- ピーテル・ブリューゲル(父)の代表作・作品解説
ピーテル・ブリューゲル(父)とは?
ピーテル・ブリューゲル 簡単ざっくり紹介
長男が同名のピーテルであることから、それぞれの作品を区別するため、本ページでご紹介している父親ピーテル・ブリューゲルは「ブリューゲル(父)」、長男ピーテルは「地獄のブリューゲル」、次男ヤンは「花のブリューゲル」とも表されます。
ピーテル・ブリューゲルの生涯・経歴
30歳を過ぎたピーテル・ブリューゲルは版元であるヒエロニムス・コックの依頼で版画の下絵となる素描を制作、34歳頃から油絵に取り組むようになりました。
北方ルネサンスで独特の世界観を築きあげたヒエロニムス・ボスの死後、ピーテル・ブリューゲルはボスの世界観を引き継ぎながら、庶民の生活や労働を主題にした世俗的な作品を多く手がけ「農民の画家」と呼ばれました。宗教を主題としたバベルの塔などの作品や寓意を込めた作品も手がけており、その作風は裕福で教養の高い人々にも愛されました。
ブリューゲル一族は家族で工房を営み、ピーテル・ブリューゲルの息子たちも有名な画家になっています。
ピーテル・ブリューゲルが活躍した北方ルネサンスとは
ネーデルラント、ドイツ、フランスなどヨーロッパの国々とルネサンス運動が盛んだったイタリアとの交流が進み、イタリアに芸術家たちが自国にイタリアルネサンス美術のエッセンスを持ち帰ったことも、北方ルネサンスに多大な影響を与えました。
ピーテル・ブリューゲルやその息子たちはネーデルラントとブリュッセルで活躍した北方ルネサンス・フランドル絵画の代表的な画家です。
ピーテル・ブリューゲルの作品の特徴・鑑賞ポイント
世俗的な主題をユーモラスに描くブリューゲル
ブリューゲル(父)の作品は、独特のユーモラスな世界観が繰り広げられる宗教画を手がけたボス同様に、ユーモラスな生き物が登場したり、描かれた物に寓意がこめられていたりしますが、ボスとブリューゲル(父)の大きな違いは、宗教画がメインだったボスに対し、ブリューゲル(父)は農民の労働や日々の暮らしなど世俗的な主題を扱った作品、庶民の暮らしに皮肉や風刺を効かせた作品を多く描いたという点です。※宗教画をまったく描かなかったというわけではなく、『叛逆天使の墜落』や『バベルの塔』のように聖書を主題にした作品もあります。
ブリューゲル(父)の描く人物や生き物は、油絵具の技法が確立していたフランドル絵画らしく鮮やかな発色で詳細に表現されています。風景を俯瞰的に描き、細かな描写が多いこともピーテル・ブリューゲル(父)の作品の特徴です。
ピーテル・ブリューゲル(父)の代表作・作品解説
ピーテル・ブリューゲル(父)『バベルの塔』
作品名:バベルの塔
Title:The Tower of Babel
作者:ピーテル・ブリューゲル(父)
Artist:Pieter Brueghel the Elder
制作年:1563年
種類:板、油彩
寸法:114cm155×cm
所有者:ウィーン美術史美術館
ブリューゲル(父)『バベルの塔』作品解説
ピーテル・ブリューゲル『バベルの塔』は、旧約聖書「創世記」に登場するバベルの塔を主題にした作品。人間が天にも届きそうな巨大な塔を建設するのを見た神が塔を破壊し、バベルの塔の建築を中止させた様子が描かれます。
バベルの塔を主題にした作品はいくつもありますが、ピーテル・ブリューゲルのバベルの塔は筒状だったところが新しく、この作品以降、バベルの塔はコロッセオのような筒状のものがスタンダードとなりました。
ピーテル・ブリューゲル(父)『バベルの塔』
作品名:バベルの塔
Title:The Tower of Babel
作者:ピーテル・ブリューゲル(父)
Artist:Pieter Brueghel the Elder
制作年:1563年
種類:板、油彩
寸法:59.9cm×74.6cm
所有者:ボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館
ブリューゲル(父)『バベルの塔』作品解説
ピーテル・ブリューゲルはバベルの塔を主題にした作品を2点残しており、こちらはウィーン美術史美術館に所蔵されている作品の次に描かれ、ボイマンス・ヴァン・ベーニンゲン美術館に所蔵されているもの。
こちらの塔は1作目の『バベルの塔』より更に塔の建築が進んでおり、塔の上部には暗雲が立ち込めています。
1作目の『バベルの塔』よりも作品のサイズが小さくなっていますが、滑車を使って上階へ物を運ぶ様子などが詳細に描きこまれており、漆喰を運ぶ滑車のあたりは粉で真っ白になっている様子が分かります。
2017年に東京都美術館で開催された『バベルの塔展』に来日したのは、この2作目のバベルの塔です。
ピーテル・ブリューゲル(父)『雪中の狩人』
作品名:雪中の狩人
Title:The Hunters in the Snow
作者:ピーテル・ブリューゲル(父)
Artist:Pieter Brueghel the Elder
制作年:1565年
種類:板、油彩
寸法:117cm×162cm
所有者:ウィーン美術史美術館(オーストリア)
ブリューゲル(父)『雪中の狩人』作品解説
ピーテル・ブリューゲル『雪中の狩人』は、月暦画と呼ばれるブリューゲルの連作6点のうちのひとつ。
左手前の木立に立つ狩りをする人々から右奥のスケートを楽しむ人々、そしてさらにその奥にそびえるアルプスの山々へと視線が流れる遠近法の構図は、ネーデルラントの田園的な風景画として有名です。
狩人たちは獲物を持っておらず、人間だけでなく犬からも手ぶらで帰る寂しさのようなものが伝わってきます。
NHK・Eテレのアニメ美術番組びじゅチューン!の『雪中のフォーメーション<山>』は、本作『雪中の狩人』がモデルです。
ピーテル・ブリューゲル(父)『ネーデルラントのことわざ』
作品名:ネーデルラントのことわざ
Title:Netherlandish Proverbs
作者:ピーテル・ブリューゲル(父)
Artist:Pieter Brueghel the Elder
制作年:1559年
種類:板、油彩
寸法:117cm×163cm
所有者:ベルリン美術館(ドイツ)
ブリューゲル(父)『ネーデルラントのことわざ』作品解説
ピーテル・ブリューゲル『ネーデルラントのことわざ』には、100以上のネーデルラントのことわざが表現されています。描かれた人々一人ひとりに意味があり、それぞれがことわざを表している楽しい風俗画です。
たとえば「尻に火がつく」「猫の首に鈴をつける」「ひとつの頭巾に2人の阿呆」「大きな魚は小さな魚を食う」などは日本人である私たちにも容易に意味を想像できるのではないでしょうか。
ピーテル・ブリューゲル(父)『子供の遊戯』
作品名:子供の遊戯
Title:Children’s Games
作者:ピーテル・ブリューゲル(父)
Artist:Pieter Brueghel the Elder
制作年:1560年
種類:板、油彩
寸法:118cm×161cm
所有者:ウィーン美術史美術館(オーストリア)
ブリューゲル(父)『子供の遊戯』作品解説
ピーテル・ブリューゲル『子供の遊戯』は、ボール遊びや馬飛びなど80種類以上もの遊戯や260人あまりの人々が描きこまれた油彩画です。
世俗的な主題を詳細かつユーモラスに描き出しており、俯瞰で見た風景の中に庶民の暮らしが描きこまれており、当時のネーデルラントの風俗を窺い知ることができます。
ピーテル・ブリューゲル(父)『農民の婚宴』
作品名:農民の婚宴
Title:The Peasant Wedding
作者:ピーテル・ブリューゲル(父)
Artist:Pieter Brueghel the Elder
制作年:1568年
種類:板、油彩
寸法:114cm×163cm
所有者:ウィーン美術史美術館(オーストリア)
ブリューゲル(父)『農民の婚宴』作品解説
ピーテル・ブリューゲル『農民の婚宴』は、農家の納屋で開かれている結婚式の様子を描いた油彩画。
日ごろ必死にはたらく農民たちは、祭りや結婚式のときにははめを外して大騒ぎしました。
この作品には、演奏する村人、大量に運ばれてくる料理、お腹が空いているのか皿まで舐めつくす子供、酒を注ぐ男など、貧しい暮らしのなかで、おめでたい祝宴を楽しむ人々の様子が詳細に描かれています。次にご紹介する『農民の踊り』と一対であったという説もあります。
ピーテル・ブリューゲル(父)『農民の踊り』
作品名:農民の踊り
Title:The Peasant Dance
作者:ピーテル・ブリューゲル(父)
Artist:Pieter Brueghel the Elder
制作年:1568年
種類:板、油彩
寸法:114cm×163cm
所有者:ウィーン美術史美術館(オーストリア)
ブリューゲル(父)『農民の踊り』作品解説
ピーテル・ブリューゲル『農民の踊り』は、農民の画家と呼ばれたブリューゲル(父)らしい油彩画。
笛を吹き楽しそうに踊る農民たちの中には、前述の『農民の婚礼』と同じであろう人物も見られ、また作品サイズも同じであることから、『農民の婚礼』と『農民の踊り』は対になる作品だという説があります。
ピーテル・ブリューゲル(父)『怠け者の天国』
作品名:怠け者の天国
Title:Land of Cockaigne
作者:ピーテル・ブリューゲル(父)
Artist:Pieter Brueghel the Elder
制作年:1567年
種類:板、油彩
寸法:52cm×78cm
所有者:アルテ・ピナコテーク(ドイツ)
ブリューゲル(父)『怠け者の天国』作品解説
ピーテル・ブリューゲル『怠け者の天国』は、怠惰な怠け者(聖職者、兵士、農民)たちが描かれた寓意画。
大食いな男たちの身体は丸々と太り、ゴロゴロと寝転がる姿は怠惰そのもの。左奥に見えるのはお菓子の家ならぬお菓子の屋根、不毛の象徴である食べかけの卵も描かれています。
宗教画であれば、怠惰な人間には罰がくだるところでありますが、ブリューゲル(父)のこの作品では、男たちはただ怠けているだけであり、どこかユーモラスな雰囲気も漂います。
ピーテル・ブリューゲル(父)『足なえ達』
作品名:足なえ達
Title:The Cripples
作者:ピーテル・ブリューゲル(父)
Artist:Pieter Brueghel the Elder
制作年:1568年
種類:板、油彩
寸法:18cm×21cm
所有者:ルーヴル美術館(フランス)
ブリューゲル(父)『足なえ達』作品解説
ピーテル・ブリューゲル『足なえ達』は、寓意として下肢障害で脚が麻痺した乞食(足なえ)を描いた油彩画。
松葉杖をついて歩く下肢が麻痺した乞食たちは、頭には王や兵士や中流階級の人間を表す帽子を被っており、お知りには狐の尻尾が付いています。
王や聖職者職や階級によって権力を持つ者を乞食という底辺階級の人間に置き換え、世の中を痛烈に風刺している作品です。
ピーテル・ブリューゲル(父)『悪女フリート』
作品名:悪女フリート
Title:Dulle Griet
作者:ピーテル・ブリューゲル(父)
Artist:Pieter Brueghel the Elder
制作年:1561年
種類:板、油彩
寸法:115cm×161cm
所有者:マイヤー・ファン・デン・ベルグ美術館(ベルギー)
ブリューゲル(父)『悪女フリート』作品解説
ピーテル・ブリューゲル『悪女フリート Dulle Griet』は、意地の悪い悪女の蔑称であるフリートを主題にした油彩画。
中央手前を左に向かって進んでいるのが悪女フリートで、右手には剣、左手には盗んできた品物を抱えています。炎が燃え盛る街の人々は争いを起こし、人間の顔を模した建物は地獄の口、奇妙な生き物たちは人間の男性を具現化したものだといわれています。
ピーテル・ブリューゲル(父)『叛逆天使の墜落(反逆天使の墜落)』
作品名:叛逆天使の墜落(反逆天使の墜落)
Title:The Fall of the Rebel Angels
作者:ピーテル・ブリューゲル(父)
Artist:Pieter Brueghel the Elder
制作年:1562年
種類:板、油彩
寸法:117cm×162cm
所有者:ベルギー王立美術館
ブリューゲル(父)『悪女フリート』作品解説
ピーテル・ブリューゲル『叛逆天使の墜落(反逆天使の墜落)』は、善と悪を主題に天使と堕天使の戦いを描いた宗教画です。
堕天使たちは人間の姿に動物や虫などを組み合わせた気持ちの悪い姿で描かれており、天使は堕天使に向かって剣を振るいます。画面中央で甲冑をまとっているのは大天使ミカエルです。混沌とした世界に蠢く堕天使たちにはヒエロノムス・ボスの影響が見て取れます。
ピーテル・ブリューゲル(父)『死の勝利』
作品名:死の勝利
Title:The Triumph of Death
作者:ピーテル・ブリューゲル(父)
Artist:Pieter Brueghel the Elder
制作年:1562年
種類:板、油彩
寸法:117cm×162cm
所有者:プラド美術館(スペイン・マドリード)
ブリューゲル(父)『死の勝利』作品解説
ピーテル・ブリューゲル『死の勝利』は、死に行く人々が描かれた油彩画。
火山が噴火し、荒涼とした風景のなかで、処刑される者、殺しあう者、突然死する者、骸骨にひき殺される者、逃げ惑うものの結局は死に追いやられる者、死を控えても尚楽しみに耽る者…どんなに死に抗おうとも、金持ちも貧乏人も関係なく誰にでも死は訪れるという世界が描かれています。