美術検定とは?
美術検定は教養を高められる試験
美術が好きな方、美術館に通われている方なら「美術検定」という検定名を目にしたことがあるのではないでしょうか。
美術検定は、教養を高めたい方や美術が好きな方はもちろん、「有名な作品しか知らない」という方でも4級や3級から気軽に受験することができる民間の検定試験です。美術検定4級~2級には受験資格がなく、誰でも受験することができます(1級は2級合格者のみ受験可)。
「美術検定」は、美術の知識・教養を高め、鑑賞力を養いつつ、積極的にアートにかかわる人材を育成するプログラムとして2003年から実施してきな「アートナビゲーター検定」が、2007年より名称変更したものです。全国の公立美術館が加盟する美術館連絡協議会と協力しながら、美術界と社会をつなぐ新たな役割の創出を目指しています。(美術検定実行委員会によるテキストより抜粋)
美術検定ってどんな問題が出題されるの?
美術検定には1~4級があり、2~4級は選択問題のマークシート(2級は選択&穴埋め)、1級は記述解答となっています。
- 4級:有名な西洋美術と日本美術の作品
- 3級:西洋美術・日本美術史に登場する作品や作家、美術の動向や形式、時代背景など歴史的な流れ。
- 2級:西洋美術・日本美術史の基本的な知識や情報を始め、建築工芸や技法、写真映像、現代美術、美術館など幅広い美術の知識。
- 1級:美術鑑賞の場の役割や機能、現状に関する知識をはじめ、鑑賞をする視点からの作品描写や、より楽しい鑑賞のためのアイデアなど。美術に携わる立場としての知識を問われる点が他の級と異なります。
2級から出題範囲や内容レベルがググッと上がり、覚えることが増えるのが特徴です。
美術検定の合格点は?
美術検定は解答率により合否ラインが変わるため、「何点以上」という明確な合格点は公開されていません。
合格の目安は、正答率約60%です(受験者全体の解答率によって左右します。また2級は美術史問題、実践問題それぞれが約60%の正答で合格となります)。1級は一定の基準に達すれば合格です。(美術検定公式サイトより)
美術検定2~4級の合格点
美術検定2~4級合格のおおよそ目安として、よくいわれるのは「6~7割の得点で合格」というライン。2~4級に確実に合格するためには自己採点で7割は取っておきたいところです。
2級は美術史・実践どちらも合格ラインを超える必要がある点に注意してください。
美術検定1級の合格点
これまでに実施された美術検定1級の合格点は、
2014年:80点以上
2016年:70点以上
2017年:75点以上
2018年:80点以上
※いずれも100点満点
美術検定1級の合格点は8割以上がおおよその目安になりそうです。
美術検定の難易度・合格率は?
美術検定の気になる合格率は、3級で7~8割、2級で3割前後といったところ。2018年度は2級の合格率が4割を超えました。
美術検定1級は2級取得者のみ受験可能となっており、合格率は1割台となかなかの難関です。
「有名な絵画ならわかる」という方は4級、美術全般が好きで美術館などにも足を運ばれている方は3級が比較的気軽に受験できる級となるでしょう。
2019年の美術検定の試験日・合格発表日は?
美術検定は年に1回、秋に行われています。
2019年度の美術検定は、
2019年11月10日(日)
の試験開催が決定しています。
受験申し込み期間は2019年7月2日(火)~9月30日(月)、インターネットでの申込みは10月7日(月)迄。
合否は12月下旬頃に郵送通知。WEBでの確認はできません。
詳細については美術検定公式サイト受験要綱をご確認ください。
美術検定の対策・おすすめ勉強法は?
試験勉強は好きな時代・ジャンルから
美術検定の出題内容は広範囲に及ぶため、「いったい何から手をつけたらいいのか」と戸惑われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
美術検定の勉強を始めるとき、まず始めに西洋美術史から手をつける方が多いと思いますが、美術検定対策として覚えなければならない知識量から考えると、美術史を古い順に覚えていくのは効率が悪いです。美術検定のテキストやほとんどの美術史本は、古代から時代順に美術様式や芸術家が並んでいます。これを頭からきっちり覚えていこうとすると、大抵は後に続く現代美術や日本美術の範囲を勉強する時間が足りなくなり、試験直前で慌てることになります(実体験です…)。検定試験まで勉強時間に余裕のある方、古代美術に興味のある方・もともと古代美術に詳しい方以外には、テキストのド頭から勉強していく方法はあまりおすすめできません。
西洋美術史のおすすめ勉強法はズバリ「テキスト1冊をザッと通読したら、あとは興味のある時代・好きな芸術家から知識を広げていく」です。
美術検定を受検される方は、もともと美術が好きだったり、美術館に通われている方が多いので、「この芸術家、この時代には詳しい」という得意分野があると思います。知らないことを詰めていくのも勿論大切なのですが、好きな部分から広げたほうが圧倒的に知識として頭に残ります。
興味のある時代・芸術家の確認が終わったら、その前後の時代を確認し、好きな芸術家と同じ時代に活躍した芸術家、好きな芸術家が影響を受けた(または影響を与えた)芸術家へと勉強範囲を広げます。ある程度範囲が広がったら、改めてテキストを通読してみましょう。全てを覚えようとせず、まずは流し読みで。その後、何度か一気に通読します。ここまで来ると、検定に出題されるレベルの美術史は大体頭に入っているはずです。
美術検定の勉強には公式テキスト
もし、検定までに慌てて知識を詰め込もうとされているのであれば、公式テキストに載っている以外のことを覚える時間がもったいないので(と言ってしまうと身も蓋もないのですが…検定合格を目標とした場合の話なので、あえてこう表現させてください)公式テキストでの勉強をおすすめします。
美術検定の公式テキスト「改訂版 西洋・日本美術史の基本」は、西洋美術・日本美術どちらも網羅しています。日本美術がお好きでしたら、日本の美術の動向と西洋美術史を平行して見ていくと覚えやすいですし、西洋美術が得意であれば、西洋美術史から同時期の日本の文化や芸術を拾っていくと良いと思います。
時間に余裕のある方は、公式テキストで勉強しながら、多くの芸術作品に触れられる画集なども開いてみましょう。画集はなかなか高価ですので、図書館の活用がおすすめです。図書館には、大判で見やすく、解説も載った画集がたくさん置いてあります。「自分にはあまり縁がないな」と思っていた作品や芸術家も、画集を通して多くの作品に触れると興味が沸いてきて面白いものです。勉強の息抜きにもぜひどうぞ。
過去問・問題集は早い時期からスタート
美術検定は、応用力ではなく知識量が問われる検定です。基本的な知識や時代の流れがザックリと頭に入ったら、問題集や過去問を始めてしまいましょう。
解答にたくさんミスがあったとしても、テキストの該当するページを確認してその都度覚えていけばOK!ミスした問題は漏らさずチェックしておき、繰り返し解くようにしてください。
美術検定は出題形式をマイナーチェンジすることがあるので(困ったことに割りとチェンジ多め)、出版年月が古い過去問や問題集は参考にとどめ、できるだけ新しいものに当たって時間配分を組み立てることをおすすめします。ここ数年の過去問は公式サイトにも掲載されています。
美術検定合格のための必須ポイント・対策
美術検定 全級共通対策
いずれの級も、西洋美術・日本美術の作品に関する問題の配点が大きいです。受験級に関わらず、美術検定の公式テキストは手元に置いておきましょう。美術検定の出題は公式テキストをベースにしているので、美術検定が芸術家の代表作や美術様式の区分をどう考えているかを知ることができますし、問題演習のなかで疑問に思ったことを効率的に解決できるという点も大きなメリットです。
美術検定の出題内容には、ある程度のトレンドがあります。日頃から美術関係のニュースに目を通したり、多くの美術作品を見るよう心がけ、西洋美術史・日本美術史ともに時代ごとのムーブメントや流れを把握しておいてください。数年前~1年後くらいの間に開催の大きな展覧会、新設美術館、海外の美術館の大きな動きなども押さえておくと良いと思います。日曜美術館(NHK Eテレ)、美の巨人たち(テレビ東京)、ぶらぶら美術博物館(BS日テレ)といった教養系のテレビ番組は展覧会のスケジュールに沿った内容の特集を組むことが多いので、そちらも併せてチェックしておくと理解が進むでしょう。
美術検定3級・4級対策
美術検定3級・4級は、「世の中に広く知られている美術作品・絵画」が多数出題されるので、有名な作品は確実に押さえておくことが大切です。過去問に写真が載っている作品はひと通り答えられるようにしておきましょう。
◎YouTube動画で検定対策
美術ファンでは、美術検定4級・3級を受験する方向けに、美術検定に出題されやすい絵画作品クイズ形式にまとめた動画をYouTubeで公開しています(チャンネル登録していただけると更新の励みになります)。
動画で紹介しているのは西洋美術の有名作品あわせて60作品です。同じ作品を取り上げた記事も作ってみましたので、動画・記事どちらでも使いやすいほうをどうぞ。
◎美術ファンTwitter
美術ファンtwitterアカウントでは西洋美術の絵画botも運営しています。「美術検定に出題されやすい有名絵画」や「有名画家のあまり知られていない絵画」を中心に芸術家名・作品名・制作年・所蔵先を付けて呟いていますので、美術検定対策や勉強の息抜きにご利用ください。
Follow @bijutsufan
美術検定2級対策
美術検定2級になると、押さえなければならない知識量が一気に増えます。問題集で苦手な時代や技法などを洗い出し、テキストや問題集の解説を読み返すことで苦手を潰していきましょう。苦手な分野も繰り返し解くことで暗記できますし、苦手意識も和らぎます。
参考書は公式テキスト「改訂版 西洋・日本美術史の基本」のほか、以下の2冊のテキストがおすすめ。テキストを通読したら、あとは繰り返し問題集に取り組んで穴を潰していきましょう。
続 西洋・日本美術史の基本
美術検定1・2級公式テキストを謳っている公式テキストの続編「続 西洋・日本美術史の基本」は、時代ごとの動きを整理できる年表や一歩踏み込んだ知識・キーワードの解説などがメイン。2級以上の受験者は「改訂版 西洋・日本美術史の基本」「続 西洋・日本美術史の基本」どちらの内容も頭に入れておきたいところです。
美術史には流れがあり、そこには新しい動き・流れが起こる理由があります。こちらの公式テキスト続編は、美術史の基本的な流れは既に押さえていることが前提の内容となっており、1冊目の公式テキストより細かい知識を押さえることができます。作品写真も豊富です(すべてモノクロページなのがちょっと残念…)。
「すでに美術史の基本を学んでいる方向けのテキスト」という位置づけなので、他の級を飛ばして2級からチャレンジされる方は、このテキストだけで合格レベルの知識を詰めるのは難しいように思います。
まずは1冊めの公式テキスト「改訂版 西洋・日本美術史の基本」の中身を確認し、すでに公式テキストレベルの内容は押さえている、もしくはある程度美術の知識に自信があるという方は、こちらのテキストから始めても良いかもしれません。
アートの裏側を知るキーワード
美術検定2級以上を受験する場合、美術史の知識だけでは合格基準に届きません。西洋美術・日本美術の知識はもちろん、美術館での実務、美術を取り巻く歴史や現状なども押さえておく必要があります。
公式テキストのなかの1冊「アートの裏側を知るキーワード(旧名・美術館を知るキーワード)」は、この辺りの出題ポイントを網羅しています。私が以前2級を受験したときの穴埋め問題(現在は実践問題に改名)は、この公式テキストから多くの問題が出題されていました。
目次は以下の通りです。
第1章:美術をみる場
第2章:美術館の歴史と役割
第3章:美術館建築と施設機能
第4章:美術館スタッフ
第5章:作品の取り扱いー調書と撮影
第6章:展覧会実務
第7章:美術館の協力者
第8章:美術館とアートを巡る環境のいま
第9章:各種関連法規
満遍なく幅広い知識が求められていることがお分かりになると思います。この1冊を繰り返し読んでおきましょう。1級を受験される予定の方も必携です。
美術検定1級対策
美術検定1級では、美術全般の幅広い知識だけでなく、仕事として美術に携わる運営側からの視点も求められます。公式テキストを使った対策だけでは正直不十分かと思いますので、キュレーションや美術館経営の関連書籍にも目を通しておきましょう。展覧会の作品解説パネルの内容も勉強になると思います。
2級までの内容は完璧に
美術検定1級の問題は「2級までの知識が頭に入っている」ことを前提に作られています。1級は1問の配点が大きいため、知識の抜けは即命取りです。
美術検定2級までの内容を忘れてしまっている方、「ギリギリセーフ!」で2級に合格された方は、公式テキストや2級の実践問題の範囲を復習し、知識の穴を埋めておきましょう。
文章力をつけよう
美術検定1級の解答は記述式。ここ2年の過去問を見てみると、論文問題では1,000字程度の解答が求められていますので、論文的な文章力、短時間で文章を組み立てる力を養っておくことが大切です。美しい文章、小難しい言葉を使った文章を書く必要はありません。とにかくわかりやすく、問われていることに答えられているかを意識して解答を作りましょう。
美術検定の公式サイトで公開されている過去問の模範解答は、美術検定の開催者が「良い見本として公に出せる」と判断した解答です。採点のポイントや講評と共に読み込んで記述のコツを盗んでください。
文章を書くことに苦手意識がある方は、事前にある程度のパターンを頭に入れておいたほうが安心かと思いますので、中高生や大学新入生向けのレポート作成術もしくは論文ノウハウ本を1冊読んでから過去問に取り組むことをおすすめします。
1級は時間との勝負!
1級を受験した際の個人的な感想です。
美術検定1級は「とにかく試験終了までの体感時間が早かった!」です。私は日ごろからブログや仕事などで文章を書く機会があるほうだと思いますが、それでも試験時間にはまったく余裕がありませんでした。
1級合格の要は解答に時間のかかる論文問題ですので、解答用紙に書き始める前に、問題用紙の隅などを使ってザックリ文章を組み立てておき、「解答用紙に書き始めたら、大幅な書き直しはしない!」くらいの意識が大切かと思います。