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『フォリー・ベルジェールのバー』エドゥアール・マネの作品解説

エドゥアール・マネ『フォリー・ベルジェールのバー』作品解説

エドゥアール・マネ『フォリー・ベルジェールのバー』1882年 コートールド・ギャラリー

エドゥアール・マネ『フォリー・ベルジェールのバー』

マネ晩年の大作『フォリー・ベルジェールのバー』

『フォリー・ベルジェールのバー』は、写実主義を代表するフランスの画家エドゥアール・マネが1881-1882年に制作した油彩画。現在はフランス・コートールド・ギャラリーに所蔵されています。

実在したフォリー・ベルジェールのバー

フォリー・ベルジェール1893年の宣伝ポスター

フォリー・ベルジェール1893年の宣伝ポスター

ショーも上演する酒場のことをカフェ・コンセールと言います。フォリー・ベルジェールはパリのナイトシーンを彩る実在のカフェ・コンセールでした。

エドゥアール・マネや友人たちも足しげくこのフォリー・ベルジェールに通い、おしゃれをして出かけてくる女性たちの姿やステージの出し物を眺めて楽しんだといいます。そんな行きつけのカフェ・コンセールの華やかで魅惑的な雰囲気をマネは的確に捉え、『フォリー・ベルジェールのバー』に描き出しました。

エドゥアール・マネ『フォリー・ベルジェールのバー』のモデル

フォリー・ベルジェールの女給シュゾン

フォリー・ベルジェールの女給シュゾン

『フォリー・ベルジェールのバー』の制作に取りかかったころ、病気がかなり進行していたマネは歩くこともままならなくなっていました。

そこでマネは、自分のアトリエにフォリー・ベルジェールを模したバーカウンターを作り、実際にフォリー・ベルジェールで働くウエイトレスを絵画のモデルとして雇います。彼女の名前はシュゾンと言い、後にマネの伝記を書いた作者と恋仲になりました。

ウエイトレスの表情が浮かない理由

ウエイトレス役のモデルの表情には空しさがにじみ、目も少し虚ろ、フォリー・ベルジェールの華やかな喧騒に包まれた雰囲気のなかでは少し浮いた感じがします。

モデルのシュゾンがアトリエで長時間ポーズを取ることに疲れたのか、それともバーで働く自分の身の上を憂いているのか、はたまた死期が近いことを悟っていたマネが自分の心情をウエイトレスに投影させたのか。

さまざまな説がありますが、判断は鑑賞者に委ねられています。

『フォリー・ベルジェールのバー』鑑賞のポイント

『フォリー・ベルジェールのバー』に描かれた鏡の不思議

鏡に映る人物像が移動している不思議な構図

鏡に映る人物像が移動している不思議な構図

『フォリー・ベルジェールのバー』の最初の構図では、中央のウエイトレスは斜め横向きに描かれていましたが、マネはあとから正面を向くポーズに修正しました。

正面のカウンターの前(鑑賞者側)に居る男性客の接客をするウエイトレスという構図。本来であれば鑑賞者に男性客の後ろ姿が見えるはずですが、あえて描かれていません。またウエイトレスの後ろの鏡に映る男性客も構図の右端へと寄せられており、実際に映るであろう位置とはズレています。

このありえない鏡のマジックによって、鑑賞者の視線は自然と中央正面のウエイトレスに集まることになり、自らもフォリー・ベルジェールの店内に入り込んだような錯覚を覚える傑作が完成しました。

カウンターに並べられた花や酒の表現力

ボトルに記された署名と制作年(左)、カウンター上の静物表現

ボトルに記されたマネの署名と制作年(左)、カウンター上の静物表現(右)

フォリー・ベルジェールのカウンターの左端に置かれた赤い酒瓶のラベルにはマネの署名と作品の制作年。洒落者のエドゥアール・マネらしい素敵なくふうです。

カウンター上の活けられた薔薇の花やガラス器に盛られたツヤツヤの果物、並ぶ酒瓶の表現は、静物画としてみても素晴らしい出来栄えで、マネの本領発揮というところでしょう。

フォリー・ベルジェールの鏡に映りこむマネの友人たち

粗いタッチで描かれたフォリー・ベルジェールの客

粗いタッチで描かれたフォリー・ベルジェールの客

鏡に映るのは、きらめくシャンデリアとフォリー・ベルジェールの夜を楽しみに着飾って出かけてきた人々の姿。

アトリエで制作された『フォリー・ベルジェールのバー』に、マネは友人たちの肖像を描き加えました。白い衣装の女性はメリー・ローラン、中央のベージュの衣装の女性はジャンヌ・ド・マルシーです。

鏡に映る画面奥の人々は粗いタッチで描かれており、細かく描写された手前のカウンターの小物たちと対照をなしています。

マネが焦がれた世間からの認知と高い評価

マネが晩年に高い評価を受けた『フォリー・ベルジェールのバー(中央)』、『春(左)』、『秋(右)』

マネ晩年の3作品『フォリー・ベルジェールのバー(中央)』、『春(左)』、『秋(右)』

草上の昼食』や『オランピア』では世間から批判・バッシングを受けたこともあるエドゥアール・マネ。

革新性のある作品を発表し印象派を始めとする前衛的な若い画家からは尊敬を集めていましたが、マネ自身が重視していたサロン(官展)には入選したり落選したり…エドゥアール・マネの画家としての評価はなかなか定まりませんでした。

マネが思い焦がれた世間からの認知・フランスからの高い評価を獲得したのはマネが晩年になってからのこと。本作『フォリー・ベルジェールのバー』や連作として構想された『春』『秋』はマネ晩年の作品であり、サロンでも大変な好評を得た『フォリー・ベルジェールのバー』はマネの最後の大作となりました。

『フォリー・ベルジェールのバー』作品情報

作品名:フォリー・ベルジェールのバー
Title:A Bar at the Folies-Bergère
作者:エドゥアール・マネ
Artist:Édouard Manet
制作年:1881-1882年
種類:油彩、キャンバス
寸法:96cm ×130cm
所有者:コートールド・ギャラリー

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